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BLOG弁護士ブログ

2021/08/12
2021/07/02
【労務管理】人事評価の違法性を否定した裁判例

人事評価

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

今回は、従業員に対する査定制度の結果に基づいて賞与・給与の額が決定されていた場合に、その査定制度やそれに基づく人事評価についての違法性を否定した裁判例(横浜地裁令和2年3月24日判決)をご紹介させていただきます。

 

なお、当該裁判例では、個人面談における、上司による従業員に対する退職勧奨の違法性がメインで争われており、慰謝料として20万円が認容されています。

 

 

■査定制度に関する原告の主張


 

 

被告である会社には、グローバル・パフォーマンス・マネージメント(GPM)と呼ばれる評価制度が導入されていましたが、これについて、原告である従業員は、

 

・GPM評価制度が相対評価であること
・評価自体が上長の「期待」という主観的要素を基準としていること
・評価者が上長1名のみであり複数の評価者による客観的評価が担保されていないこと

 

などから、GPM評価制度が不公正な制度であり、制度自体が違法なものであると主張しました。

 

■査定制度に関する裁判所の判示


 

 

これに対し、裁判所は、

 

・人事評価において、相対評価を採用することが、およそ直ちに違法となるか自体疑問がある
・その点を措くとしても、GPM制度が相対評価であると認めるに足りる的確な証拠はない
・少なくとも、原告に対する評価は他の従業員と比較してされているわけではないから、原告に対する人事評価が相対評価であるから違法であるとの原告の主張は、その前提を誤るものであって採用できない。

 

・従業員が従事する業務の内容及び性質によっては、客観的に算出することができる数値等のみによってその業務の正当な評価を行うことができない場合があることは明らかであり、評価基準に主観的な要素が含まれているからといって、直ちにこれを不公正で違法なものということはできない。

 

・そもそも被告のGMP評価における「期待」というのは、上長の純粋に個人的・主観的な期待を意味するものではなく、その役職に対して一般的・客観的に期待されるレベルを意味するものと解するのが相当である。

 

・被告のGPM制度においては、まずは直属の上長が評価を行い、その後、上位上長及び人事部門を入れた処遇会議において、上長が評価の理由について説明し、上位上長及び人事部門が承認をすることにより、最終的な評価が決定されるのであるから、上長1名のみによる恣意的な評価を許容するものであるとも認められない。

 

したがって、GPM評価制度そのものを不公正かつ違法な制度であるということはできないと判示しました。

 

■各年度の人事評価について


 

 

また、会社による最終考課は、原告が

 

・会議に出席した際に意見を述べなかったこと、
・業績検討会議における報告内容が検証不足であったこと、
・作業の引継ぎが不十分であったこと、
・マニュアル連携業務の実質的な取りまとめ作業を部長報告も含めて関連子会社に任せたこと、
・社内サイトにおける活動を実施するための仕組みを運用に乗せることができなかったこと

 

などをその理由とするものであり、原告が外されたと主張する業務を行わなかったことや、原告の担当した業務量が少なかったことを理由とするものとは認められないから、成果を上げる前提を欠いていたのに低い評価をされたという原告の主張は当たらないとして、

 
各年度のGPM評価は、人事評価に関する使用者の裁量を逸脱濫用したものとは認められないと判示しています。

 

■人事評価の裁量権


 

 

賃金の決定、計算方法等は、就業規則の絶対的必要的記載事項であり(労働基準法89条2号)、就業規則(給与規定)中に、査定を行って賃金や賞与の額を決定する旨の査定条項が置かれている場合があります。

 

人事評価は、使用者の裁量的判断に委ねられており、その裁量権を逸脱・濫用した場合でなければ、違法とはなりません。

 

当該裁判例は、人事評価について、使用者の裁量権の逸脱・濫用はないと判断した一事例です。

 

2021/06/24
【交通事故】ドライブレコーダーの映像提出を命じた裁判例

ドライブレコーダー

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

今回は、交通事故に関し、東京都に対し、事故車両である都営バスに設置されていたドライブレコーダーの映像が準文書にあたるとして、民事訴訟法の文書提出命令に基づき、その提出を命じた裁判例(東京高裁令和2年2月21日決定)をご紹介させていただきます。

 

■事案の概要


 

 

被害者が都営バスに衝突して死亡した交通事故について、その相続人(原告)が、東京都(代表者は公営企業管理者東京都交通局長)に対し、損害賠償請求訴訟を提起した事案です。

 

東京都は事故態様について争い、被害者にも過失があるとして、過失相殺の主張をしたことから、原告が上記ドライブレコーダーの映像について、文書提出命令の申立をしました。

 

■根拠条文


 

 

民事訴訟法第220条2号には、「挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。」は、「文書の所持者は、その提出を拒むことができない。」と定められています。

 

実体法上の引渡・閲覧請求権が認められることが、同条号の要件ですが、これら請求権が私法上のものに限られるか、公法上のものを含むかについては争いがあります。

 

当該裁判例は、東京都情報公開条例に基づき、文書提出を認めていますので、公法上の請求権に基づくものも認める立場と考えられます。

 

■東京都情報公開条例の構造


 

 

東京都情報公開条例には、非開示情報が記録されている場合を除き、開示請求をしたものに対し、当該公文書を開示しなければならない旨が定められています(7条本文)。

 

そして、原則として、個人に関する情報で特定の個人を識別することができるもの(個人識別情報)は、非開示情報にあたるが(同条1項)、

 

例外的に、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報は非開示情報には当たらないとされています(同項ロ)。

 

■裁判例の判断基準


 

 

当該裁判例は、この東京都情報公開条例の構造から、特定の情報が公開の対象となるか否かは、

 

・当該情報の開示により、個人情報が開示されることによる不利益の程度と

・当該情報の開示により、保護される人の生命、健康、生活又は財産の重要性を

 

比較衡量して、判断すべきとしています。

 

■裁判例のあてはめ


 

 

当該裁判例は、

 

・走行中の都営バスのドライブレコーダーにより記録された映像であること

・約2分間という短時間のものであること

・開示の目的が民事訴訟の証拠として使用するものであること

 

からすれば、仮にその映像に、特定個人の容貌や、車両のナンバープレートがなどの個人情報が含まれていても、訴訟中において、これらが開示されることによる不利益は非常に小さなものであるとしました。

 

これに対し、本件の基本事件が、

 

・死亡事故に係る損害賠償請求訴訟であること

・過失相殺が争点になっていること

・映像の開示により過失割合に関する裁判所の判断が変動し、損害賠償額が大きく変わる可能性があるこ十分にあること

 

から、ドライブレコーダー映像の開示により保護される可能性がある財産的利益は、相当程度大きいものがあるとしています。

 

■裁判例の結論


 

 

以上によれば、ドライブレコーダー映像の提供により保護される財産的利益は、その提供により個人情報が開示される不利益を大きく上回っているから、当該映像は、民事訴訟法220条2号に該当するとして、文書提出命令を認めています。

 

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